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シリーズ呼吸器外科 2 縦隔腫瘍・胸壁腫瘍 ①

■縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)とは■


縦隔(じゅうかく)とは縦(たて)に隔(へだ)てるという名称がついていますが、特定の臓器の名称ではありません。左右の肺の間に胸膜で囲まれた空間(すきま)をさします。ここに、発生する腫瘍を縦隔腫瘍と言います。縦隔には胸腺、心臓、大動脈、食道、気管、リンパ管、神経節などが存在します。

縦隔腫瘍は多くは良性ですが、悪性(約20%)も存在しますので治療法も様々です。良性であっても、悪性であってもほとんどの腫瘍に手術を行います。放置すると気管・食道・心臓・神経などが圧迫され種々の症状が現れます。

■縦隔腫瘍の種類■


縦隔を解剖学的に、上縦隔、中縦隔、前縦隔、後縦隔に分けるのが一般的です。 腫瘍の種類によって発生しやすい場所がある程度同定できます。

縦隔の区分(側面像)

縦隔の区分(側面像)

■縦隔腫瘍の症状■


縦隔腫瘍の多くは良性であるため無症状で、検診、他疾患で観察中の胸部X線写真や胸部CTで偶然発見されます。腫瘍の増大や発生部位によっては気管・食道・血管、心臓・神経などが圧迫され呼吸困難、嚥下困難、胸痛、動悸、顔のむくみなどがみられることがあります。胸腺腫に重症筋無力症を合併した場合はまぶたが重くなったり、四肢の脱力感、貧血などがみられることがあります。

■縦隔腫瘍の診断■


縦隔腫瘍の診断には胸部X線写真、胸部CT、胸部MRI、超音波(エコー)、血管造影、胸腔鏡などの検査が行われることがあります。

【症例1】前縦隔に発生した良性成熟奇形腫

胸部X線写真(正面・側面)

胸部X線写真(正面・側面)

胸部CT(冠状断・水平断)

胸部CT(冠状断・水平断)

左:腫瘍の内部には骨、白髪、膵組織,神経組織を認めた、右:左乳房外縁に沿った4cmの傷で手術

左:腫瘍の内部には骨、白髪、膵組織、神経組織を認めた
右:左乳房外縁に沿った4cmの傷で手術

【症例2】後縦隔に発生した神経鞘腫

胸部CT

胸部CT

左:胸腔内所見(後縦隔腫瘍)、右:胸壁から剥離した腫瘍

左:胸腔内所見(後縦隔腫瘍)
右:胸壁から剥離した腫瘍

左:摘出した2個の連なる腫瘍、右:腫瘍摘出後胸腔内所見

左:摘出した2個の連なる腫瘍
右:腫瘍摘出後胸腔内所見

【症例3】縦隔発生気管支性嚢腫

中央:胸部CT、右:胸部MRI

中央:胸部CT
右:胸部MRI

左上:嚢腫は第2肋骨と第3肋骨に存在、右上:壁側胸膜を切開、左下:壁側胸膜を切離した嚢腫壁を露出、右下:切除後の胸腔内所見

左上:嚢腫は第2肋骨と第3肋骨に存在
右上:壁側胸膜を切開
左下:壁側胸膜を切離した嚢腫壁を露出
右下:切除後の胸腔内所見

■縦隔腫瘍の治療■


①良性の縦隔腫瘍はほとんどが胸腔鏡下手術(VATS)で可能です。全身麻酔下に3つのポートを胸壁に留置し切除することが可能です。
②気管支性嚢腫は縦隔、頚部、横隔膜その他の部位に発生することがあります。
③神経原性腫瘍には良・悪性とも存在しますが、ほとんど良性です。
④胸腺腫は良性ですが、比較的おとなしい、非浸潤性のものと、血管、神経、その他の隣接臓器などに影響する 浸潤性のものがあり、前者は胸腔鏡で後者は開胸手術が必要になります。さらに浸潤性は摘出後に放射線治療が必要になることがあります。また、胸腺腫には重症筋無力症を合併することがあります。
⑤腺癌では化学療法や放射線療法も必要となります。
⑥胚細胞性腫瘍は胸腺から発生する腫瘍で、その90%が良性とされており、奇形腫が大部分を占めます。奇形腫以外の胚細胞性腫瘍は10%は悪性で、若い男性に発生しやすい特徴があります。
⑦悪性リンパ腫は確定診断のために胸腔鏡下に腫瘍の一部を摘出します。診断後、血液内科での化学療法などが治療の主体となります。
⑧外科的手術が第一選択ですが、放射線療法および化学療法で効果が出やすい腫瘍に胚細胞性腫瘍(セミノーマ)、 悪性リンパ腫、胸腺腫、神経芽細胞腫などがあります。

■縦隔病変に対するVATSの適応(胸腔鏡下手術)■


【治療的胸腔鏡】

神経原性腫瘍(良性)
気管支性嚢腫
胸腺嚢腫
重症筋無力症(浸潤性胸腺腫非合併例)
(心膜嚢腫)、その他

【診断的胸腔鏡】

サルコイドーシス
縦隔リンパ節結核
縦隔リンパ節生検(悪性リンパ腫、肺癌によるリンパ節腫脹)
その他

中頭病院
呼吸器外科部長 大田守雄