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乳腺科

乳がんのホルモン療法について


乳がんのホルモン療法について


乳がん治療において、女性ホルモンの「エストロゲン」を抑える治療である「(抗)ホルモン療法」は

再発・進行や防ぐ目的として重要な治療の一つとなっています。

ここでは、乳がんにおける「ホルモン療法」についてお話します。

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ホルモン療法について




◆ 乳がんについて

乳がんは主に「乳腺」にできるがんのことをいいます。

「乳腺」は「小葉」とよばれる、乳汁(おっぱい)をつくる部分と、小葉でつくられた乳汁(おっぱい)の通り道で

ある「乳管」からできています。

乳がんができた場所に応じて

・       乳管にできるがん →「乳管がん」

・       小葉にできるがん →「小葉がん」

といいますが、乳がんの約90%が「乳管がん」、5~10%が「小葉がん」いわれています。

また、乳がんにはその進行度に応じて初期(0期)の「非浸潤がん」とそれより進行した「浸潤がん」がありま

す。

「非浸潤がん」 :乳管や小葉の基底膜の中だけにがん細胞がとどまっているもの

「浸潤がん」 :がん細胞が乳管や小葉の基底膜を破って外に飛び出しているもの

乳がんの治療では、「非浸潤がん」と「浸潤がん」では治療内容が大きく異なります。

初期の乳がんである「非浸潤癌」はがん細胞が基底膜の中にとどまっており、他のリンパ節など散らばって

いる可能性がないため、抗がん剤を用いた化学療法は必要ありません。

※ 非浸潤性乳管癌を「DCIS(Ductal Carcinoma In Situ)」といいます。

乳がんについて「非浸潤がん」と「浸潤がん」





◆ 乳がん細胞の性質と治療

乳がんのがん細胞は、大きく分けて2種類の性質を持っています。

「女性ホルモン(エストロゲン)感受性のあるがん細胞」

「女性ホルモン(エストロゲン)感受性のないがん細胞」

またそれぞれの性質によって行う治療法も違ってきます。

「女性ホルモン(エストロゲン)感受性のあるがん細胞」は、女性ホルモンのエストロゲンを栄養として大きく

なる性質を持っています。治療法としては、抗がん剤を使用する「化学療法」、放射線を照射する「放射線

法」、女性ホルモンをおさえる「ホルモン療法」があります。「女性ホルモン(エストロゲン)感受性のないが

細胞」で、この性質のがん細胞には、ホルモン療法は効果がないので、ホルモン療法は行わず、化学療

や放射線治療を行います。乳がんの「ホルモン療法(抗ホルモン療法)」とは、女性ホルモン(エストロゲン)

を栄養として大きくなるがん細胞(エストロゲン感受性乳がん)に対して行う治療法であり、エストロゲンを

えることにより、がん細胞の縮小や再発を予防する治療法をいい、別名「内分泌療法」とも呼ばれます。

【 注意 】
婦人科では、更年期障害の治療で女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法」を「ホルモン療法」と呼ぶ

ことがあり、そのホルモン補充療法には副作用として乳がんの発生・再発の報告があります。そのた

め、乳がんのホルモン療法と混同して『乳がんのホルモン療法を行うと乳がんが再発するのでは?』

聞かれる事があります。乳がんのホルモン療法は「女性ホルモンを抑える治療法」なので、乳がん

ホルモン療法が原因で乳がんが再発することはありません。

乳がんの主な治療法ホルモン療法(内分泌療法)とは





◆ 乳がんホルモン療法に使われる薬剤

注射薬と内服薬があります。閉経前後により使用される薬剤が異なります。

各種抗ホルモン剤について~注射薬~各種抗ホルモン剤について~内服薬~



~ フェソロデックス注について ~

「フェソロデックス注」は、2011年11月に発売された「閉経後乳がん」に適応の薬剤です。

★エストロゲンホルモンが、がん細胞のエストロゲン受容体へ結合するのをブロック
★がん細胞のエストロゲン受容体の数を少なくする

現在は閉経後の再発乳がんに使用されることが多く、再発を予防するための補助療法として使用すること

まだ検討されていません。

投与方法 :1回2本をお尻の筋肉(大殿筋)に筋肉注射します。

初回投与後、2週間後、4週間後に注射し、それ以降は4週毎に注射します。

フェソロデックスについて





◆ 乳がんのホルモン療法について

ホルモン療法は現在では「内服薬(飲み薬)」と「注射薬」を使用した治療法が主流となっています。以前は

卵巣を摘出する手術を行うこともありましたが、内服薬や注射薬でも同じような効果が得られるため、手術

うことは殆どありません。

ホルモン療法は閉経前の乳がんと閉経後の乳がんで使用する薬が変わってきます。

なぜ、閉経前後で違うのか?

理由は閉経前と閉経後では、エストロゲンが作られる場所が違うからです。

エストロゲンは、閉経前は「卵巣」で主に作られ、閉経後は卵巣機能が衰え、代わりに副腎で作られるアン

ロゲン(=男性ホルモン)を材料にして、「脂肪組織」にあるアロマターゼという酵素の働きでエストロゲン

作られます。

閉経前は主に卵巣に作用する薬剤を、閉経後は脂肪組織にあるアロマターゼに作用する薬剤を使用して

きます。

ホルモン療法(内分泌療法)とは





◆閉経前乳がんのホルモン療法について

閉経前は、エストロゲンは「卵巣」で作られるため、卵巣に作用してエストロゲンの合成を抑える注射薬(LH

-RHアゴニスト)を皮下注射します。そしてエストロゲンが、がん細胞に作用しないようにブロックするお薬

(抗エストロゲン薬)を服用していきます。注射薬は2~5年間治療を継続するという考え方や、閉経する年

(平均52歳)まで継続するという考え方があり、治療期間については定まった見解がありません。

注射薬は「ゾラデックス」または「リュープリン」のどちらか一つを使用し、「ノルバデックス」というお

薬を服用します。ホルモン療法の内服薬は他にもありますが、閉経前の乳がんに対して、「ノルバデック

ス」のみ保険が適応となっています。

ゾラデックス注やリュープリン注の開始時は一時的に妊娠しやすい状況になりますので、注意してくださ

い。また、不正出血もみられることがあります。不正出血が続くような場合は主治医へ相談してください。

ホルモン療法(内分泌療法)とは





◆ 閉経後乳がんのホルモン療法について

閉経後は「脂肪細胞」にある、アロマターゼによってエストロゲンが作られます。そのためアロマターゼに作

用して、エストロゲンを作らせないお薬(アロマターゼ阻害薬:内服薬のみ)やエストロゲンが、がん細胞に

用しないようにブロックするお薬(抗エストロゲン薬:内服薬や注射薬)のどちらか一つを服用します。

アロマターゼ阻害薬と抗エストロゲン薬を併用する臨床試験を各国で行ってきましたが、ノルバデックスと

リミデックスを併用した臨床試験(ATAC試験)では、併用したほうが効果が劣ったとの報告があり、現在

ちらか一つを服用する治療法を行っています。

閉経後乳がんの場合





◆ DCIS(非浸潤性乳管がん)のホルモン療法について

がん細胞が乳管の中だけにとどまっている初期(Stage0または0期)の乳がんを「非浸潤性乳管がん

(DCIS)」といいます。DCISのホルモン療法は、これまで説明したホルモン療法とは異なり閉経前・

閉経後に関わらず「ノルバデックス(タモキシフェン、ノルキシフェン、タスオミン)を5年服用する」のみとなります。

非浸潤性乳管がん(DCIS)の治療





◆ 乳がんホルモン療法の意義

乳がんホルモン療法は、最低でも5~10年の服用が基本とされています。

乳がんでは術後5年以降の再発もめずらしくないため、最近では10年間の内服を推奨する意見が多くなり

ました。

ホルモン療法(内分泌療法)の意義



下のグラフは、ホルモン療法を続けた年数別で、その10年後にどれだけ乳がんの再発が防げたかを示し

グラフです。5年間ホルモン療法を行うと再発を47%抑えることができたとの報告があります。5年間の内

で47%でら、それ以上に服用を続ければ、再発を予防する確率は更に増えていきます。できるだけ

服用し再発を防ぐことが重要とされています。

なぜ5年以上の内服が必要なのか?なぜ5年以上の内服が必要なのか?





◆ 副作用について

「ホルモン療法は5年~10年以上の内服が必要」とお話しましたが、そうなるとやはり心配なのが「副作

用」ではないでしょうか。お薬には副作用が当然つきものですが、ホルモン療法には、命に関わる副作用は

非常に少ないとされています。

抗ホルモン剤を5年間以上内服





◆ 「ノルバデックス」「フェアストン」「フェソロデックス注」の利点と副作用

がん細胞にあるエストロゲン受容体をブロックするこれらのお薬は、服用する利点として、骨や血管に対し

はエストロゲンホルモンのような効果を示すことが特徴です。そのため、骨粗しょう症や動脈硬化を予防

するとされています。

ノルバデックスのみに見られる副作用の特徴として挙げられるのが、「子宮内膜異常」ですが、発生の頻度

は0.2~0.3%(1000人中2~3人)と非常に低く、発見されたとしても軽度でありごく初期に発見されることが

ほとんどです。服用されている患者さんは早期発見のためにも年1回の子宮がん検診(子頚がん検診:

コー検査)をおすすめします。

先ほども述べたように、ホルモン療法は、5年間の服用で40%以上の乳がん再発を防ぐわけですか

ら、子宮がんになるリスクよりも、再発を防ぐメリットのほうがずっと大きいのです。

「更年期障害のような症状」は、服用後数ヶ月で症状が軽減することが多いのですが、症状がひどいときは

漢方薬などで対処することもできますので、我慢せずに主治医へご相談ください。突然汗が出てくるホット

フラッシュの対策としては、カーディガンなど脱ぎ着ができる、体温調節のしやすい服装を心がけ、吸水

の高いスカーフ等を使用することもおすすめです。

「中性脂肪の増加」「血栓症」に関しては、フェアストンはノルバデックスと比較してその発生率が低いとされ

ています。

ノルバデックス(タスオミン、タモキシフェン、ノルキシフェン)を服用されている方へ

このお薬は飲み合わせに注意が必要なお薬が多く、併用するお薬によってはノルバデックスの効果

弱くしたり、または併用する薬の効果を強くして副作用が出る場合もあります。他に併用している薬

あれば、主治医や薬剤師にご相談ください。

抗ホルモン剤について 利点抗ホルモン剤について 副作用

抗ホルモン剤について 副作用





◆ 「アリミデックス」「アロマシン」「フェマーラ」の利点と副作用について

このお薬の特徴としては、乳がん再発の原因の一つとなる「エストロゲン」を作らせない薬剤であるため、抗

エストロゲン薬と比較して治療効果が高いとされています。

また、抗エストロゲン薬(とくにノルバデックス)にみられる高脂血症や血栓症の副作用が低いとされていま

す。副作用としては、閉経後の方が服用しても「更年期障害のような症状」がみられますが、服用後数ヶ月

で軽減していきます。

「関節痛」「骨粗しょう症」はアロマターゼ阻害薬特有の副作用です。

「関節痛」は初期症状として朝の手や足のこわばり・関節の痛みなどがあり、リウマチの症状と似ています

が、手や足などの関節を動かすことにより症状がよくなっていきます。

症状がひどくなるようであれば、抗エストロゲン薬へ変更することもできますので、我慢せずに主治医へご

談ください。

「骨粗しょう症」は現在明確な発生頻度は分かっていませんが、抗エストロゲン薬と違って骨に対するエスト

ロゲン作用はないため、骨粗しょう症になりやすいとされています。(年に1度骨密度を測定することをお勧

します。)

現在、アロマターゼ阻害薬は、閉経後乳がんに対してのみの適応であり、閉経前の乳がんに対して保険適

応はありません。(閉経前乳がんには、内服薬はノルバデックスのみ保険適応)

抗ホルモン剤について 利点抗ホルモン剤について 副作用





◆ まとめ

乳がんホルモン療法は安全性の高い治療法です。長期に継続する必要のある治療なので、服用中に分か

らないこと、気になることがあれば、お気軽に医師・薬剤師にご相談ください。

まとめ乳がんホルモン療法は安全性の高い治療法である

社会医療法人敬愛会 中頭病院

薬剤部

がん薬物療法認定薬剤師

山本 紗織


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